MIYAKE ISSEY展 三宅一生の仕事

TALK EVENT REPORT

「作り手と使い手の喜びの出発点」

皆川 明

皆川 明(ファッションデザイナー)

5月12日、「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」の関連イヴェントとして、ファッションデザイナーの皆川明によるトーク「作り手と使い手の喜びの出発点」を開催しました。
トークでは、皆川がものづくりに込める想いや考え方を、アトリエでの仕事、工場との取り組み、そして様々な図案を交えながら紹介し、生活に喜びをもたらすデザインの役割や、仕事と人生の価値について語りました。
今日のタイトルを「作り手と使い手の喜びの出発点」としたのは、つまりそれが、自分にとってのデザインではないかと思っているからです。かたちだけでも、機能だけでもなく、プロセスのありかたがデザインだと考えています。
ものづくりの最初は、アイデアを考えることです。世の中にあったらいいんじゃないか、アートや文学のように人生をより豊かにするものであればいいもの、それらのアイデアを洋服や食器や家具にするのですが、思考を物質にするまでをどのような道筋にするのかが、一番大切なことなんです。
僕には、つくっている時にしたことが、その結果生まれるものには絶対的に含まれていて、それ以上にはならないという思いがあります。ご自分で素材を開発されている三宅一生さんも、おそらく同じではないかと思うのですが、マテリアルを決め、かたちを決めるとき、最後まで気を抜けません。なぜならそこから、僕らの外側の“労働”がスタートするからです。
そこには工場さんや様々な職人さんなど、多くの方たちが関わっています。その方たちの生活の糧のためだけではなく、ものをつくる喜びが含まれていないといけないと思います。人生のなかで仕事に費やす時間はとても多いのですから、喜びがないとしたら、いったいどんな意味があるでしょう。僕らのデザインから、彼らの作業に喜びが伝わらなければ働く人に喜びはないし、その結果生まれたものを使う人にも、ないと思うのです。
この数年はファッションに限らず、家具や食器などのデザインをするようになったのですが、イッセイミヤケというブランドが世界中のクリエイターとつながりながら様々なプロダクトをつくっていることに、とても共感します。理念を共有して広がっていくことは大事なことだと考えつつ、続けているところです。
一方で、アーカイブを販売するアルキストット、裁断の後の布を新しいプロダクトにして販売するピース、といったお店の活動も続けています。ものをつくる人や時間への敬意から始めました。ミナ ペルホネンを始めるきっかけのひとつが、なぜシーズンが終わるとその洋服の価値が終わったと考えるのだろう? と疑問に思ったことだったからです。
僕らの思考からものが生まれ、使う人がそのものに愛着をもって人生の時間で大切にしてくださることが、価値の交換になるのではないでしょうか。思考から物質が生まれ、使う人は物質から感情をもらう。その循環が大切なのではないかと思います。
三宅一生さんの展覧会でも、思考や可能性やイノベーションや気づきがあったことが年表のように見えてきました。45年クリエーションを続けてきた一生さんとスタッフの感情の重なり、人と技術と社会の関係と集積を見て、とても力づけられました。
そして何よりも、ほかのブランドのデザイナーである私に、今日のこのような機会を与えてくださったことに感銘を受けています。お互いの技術や考えを共有しながら、クリエーションは独立して進んでいく、今はそんな時代かなとも思います。産地は疲弊していますが、気づきをもってデザインの価値をあらためて問い、作り手の感情を使い手がくみ取れるものが社会に満ちると、もっと豊かな暮らしに近づけるかもしれません。
展覧会を見て、こんなに凄い先輩がいるんだから、僕たちは一生さんに続くように、ファッションが社会に与える影響をもっと広げていけるように、歩んでいければと思っています。
編集:カワイイファクトリー
写真:吉村昌也
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