MIYAKE ISSEY展 三宅一生の仕事

TALK EVENT REPORT

「Nobody Knows」

高木由利子

高木由利子(写真家)

田根 剛

田根 剛(建築家)

5月8日、「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」の関連イヴェントとして、写真家の高木由利子と建築家の田根剛によるトーク「Nobody Knows」を開催しました。
トークでは、ふだん公開することの少ないという高木の撮影プロセスを紹介しながら、写真と建築という異なる視点から見た三宅一生の仕事、また、それぞれの現在進行形のプロジェクトやクリエイションに対する考え方について語り合いました。
田根:
三宅一生さんがこれまで作られた服を撮影したシリーズ「ISSEY MIYAKE BEYOND TIME AND SPACE」についてお訊きしたいと思います。
高木:
3年前、一生さんからお電話をいただいて、1970年からのアーカイブの服を新たに撮りおろしてほしいという驚くべきオファーをいただいたのが始まりです。
田根:
膨大な数の服をご覧になったと聞いています。どんな印象でしたか?
高木:
最初に一生さんと北村みどりさんとご一緒に、床一面に並べられた服を拝見しました。今見てもほんとうに新鮮で、普遍的な美を感じて感動しました。
田根:
撮影のテーマを決められたのはどの段階ですか?
高木:
最初に見せていただいたその時に、5つのエレメンツ――水・火・風・土・空――という言葉が閃きました。その事をお伝えしたら、一生さんが自分のインスピレーションはすべて自然から来ていると言われたのです。
田根:
ロケーションなどはどうやって決めたのですか?
高木:
このシリーズの撮影地のひとつはアイスランドですが、もともと熊野古道をイメージしていて、ロケハンにも行ったのです。でも何か違うなと思いながら、ロケハンの写真を見ていたら、夜中の1時に突然「アイスランド」という言葉が降りてきました。行ったこともなかったので、画像検索から始めていろいろと調べているうちに、地球の始まりのような大地と果たしなく続く天空の光景は、一生さんの服の再生の場として最高なロケーションだと思いました。「他の惑星から地球に降り立った宇宙人」という発想から撮影は始まりました。
田根:
実は僕、去年の夏に3日間だけ行きました。地球ではないような風景でした。木も草もない、生命のない大地。だから高木さんの写真の中の、一生さんの服から生命を感じます。
高木:
撮影は8月、夏の終わりです。アイスランドの天気は、5分おきくらいに変わる。どんどん光が変わってしまうので、時間との戦いでした。
田根:
インスピレーションを強く感じます。同時に即興性もあり、そのふたつが同時に存在している。
高木:
そのとおりで、両方とも重要なのです。この時の撮影では、いくつかの奇跡が起きました。神様からのプレゼントのように雨が止んでくれたり、ほとんど見ることができない夕陽が欲しい瞬間に出たり。一生さんの服自体が一種のマジックですから、もうひとつのマジックを生み出さないといけない。建築のお仕事も同じだと思いますが、まず何か核になるものを決めないといけないですよね。その上で、ケースバイケースで違う状況になる。それを受け入れ、よりよいことを創り出すわけです。たとえば満月が出なくて落ち込んでいたら、そこで全ては終わってしまいますから、満月が見えない空気感を感じ取って、違うシチュエーションにすり替えることもできるのです。
田根:
僕らの場合はもうすこしおおらかかもしれません。イメージを考えるのは抽象的な仕事ですが、現場に入ると物理的で身体的な作業に変わります。僕はできあがって人が使い始めてからが、その建築の始まりだと思っています。細かいことを気にしているとストレスがある仕事なんです。
高木:
田根さんは、建築の根底にあるものは場所の記憶だと仰っていますが、素晴らしいコンセプトだと思います。
田根:
今年の10月1日に一般公開が始まるエストニア国立博物館は、僕らの初めての建築です。何を手がかりに設計するかを考え、旧ソ連時代に作られて未使用のまま荒廃していた軍事用滑走路を施設に取り込むことで、過去を抹消せず、壊すでもなく、現在とつないでいく提案をしました。これ以降、場所と記憶をひとつのかたちにつないで建築を作ることが明確になったと思います。
高木:
私が続けている「The Birth of Gravity」というプロジェクトで、世界各地を訪ねて土地の力と人間の関係を撮影しています。人と人、人と土地、人と生物の間には、本来引きあう力があります。それらの引力を再認識する事で、私たちはもっと調和のとれた生活を営む事ができると信じて、引力を探求する撮影旅行は続行中です。
田根:
建築もまさに重力との戦いなのですが、場所のもつグラビティ、それは記憶とも言えるかもしれないですね。それを建築にいかしていけないだろうかと考えています。
高木:
必然性のあるもの、自然の摂理にそっているものは美しいですからね。
編集:カワイイファクトリー
写真:吉村昌也
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