MIYAKE ISSEY展 三宅一生の仕事

TALK EVENT REPORT

「三宅一生の感覚」

佐藤 卓

佐藤 卓(グラフィック・デザイナー)

深澤直人

深澤直人(プロダクト・デザイナー)

4月23日、「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」の関連イヴェントとして、本展のアートディレクションを担当したグラフィック・デザイナーの佐藤卓と、プロダクト・デザイナーの深澤直人によるトーク「三宅一生の感覚」を開催しました。トークでは、二人が三宅と出会ったきっかけや21_21 DESIGN SIGHTの仕事などを通して感じた三宅の感覚と意志(こころざし)について話した後、それぞれが考えるデザインと社会の関係や、デザイナーの役割について語り合いました。

三宅一生さんとの出会い

深澤:
僕が初めて一生さんを知ったのは、80年代にサントリーのテレビCMに登場された時でした。圧倒的なオーラがあって、デザイナーというのはこんなに格好いいものかと感じました。
佐藤:
僕が2001年から続けている「デザインの解剖」のプロジェクトでA-POCを解剖するお声がけをいただいて、初めてお目にかかりました。PLEATS PLEASE をプロダクトとして作られていることを知って驚き、「ファッションの世界の人」という自分の刷り込みが崩れたのを覚えています。その後、僕らが21_21 DESIGN SIGHTのお誘いをうけたのは2005年頃でした。イタリアンレストランの小さなテーブルにナマの一生さんがいらっしゃって。緊張しましたね。
深澤:
“ナマ”っていうのはいいなあ(笑)。
佐藤:
「デザインの施設ができるかもしれないので、一緒にやってもらえないか」と言われた時は、顔を見合わせて、そ、そ、それはどういう?という感じでしたよね。
深澤:
イエスもノーもいえず、ただ食べてた。かなりの頻度でお会いするようになった今でも、その時の良い意味での緊張感は抜けていません。

感覚とは?

深澤:
一生さんは発想された時に、それをゆるやかに言葉にするんですよね。彼の思考は宇宙のように大きいし、感覚はとびきりシャープだから、それをキャッチするのは、最初の頃はとても難しかった。いまだに難しいですけれど。
佐藤:
一生さんはご自分の感覚に素直です。それは当たり前のようでいて、意外に難しいことだと思うんです。普通はコントロールしてしまうから。決めたことを疑い、違うなと思ったらそれに従う。可能性を逃がさず、ぐいぐい引き寄せてこじ開けていくような感覚が研ぎ澄まされている。
深澤:
最近ご一緒したショップのインテリアデザインの仕事の時は、とても論理的でした。ロジカルな問題解決型のアプローチもされるんです。
佐藤:
日本の伝統技術や環境問題に意識をもたれているのはずっと以前からですから、もちろんすべて感覚的であるわけではなく、バランスがとれている。

三宅一生の意志(こころざし)

深澤:
一生さんの意志はたいへんなものだと思います。内側では常に戦っている。一見きらびやかな世界の裏側は、とても大変なはずですから。
佐藤:
意志が真に強い。こちらも背筋を伸ばして自分の意志を確認しなければいけないと、いつも思います。
深澤:
お会いする日は、もっと歯を磨かなければ、みたいな(笑)。僕とミーティングする日には、僕がデザインした時計をさりげなくつけておられる。あの心遣いはすごい。
佐藤:
ホスピタリティのきめの細かさ。
深澤:
やさしさが格好いいんです。参っちゃうんです。この前ミラノで会った友人、ジャスパー・モリソンと二人で「一生さんは謙虚な人だね」と話しました。
佐藤:
今回の展覧会に関わる機会をいただき、一生さんの代表的な服をひと通り見せていただいて、「一枚の布」というコンセプトだからこそ、無限の表現があるということを感じました。俳句の五七五のように、ルールや規則は可能性を閉じ込めるものではなく、無限の可能性のために必要なのに、今の社会は何でもありですね。
深澤:
心理学者のカール・ユングが提唱した「集合的無意識」というコンセプトがあります。僕なりに解釈すると、誰もが気にしていない状態で共通に認知しているものがデザインではないかと。みんなが思い描いたことをエンボディメント(Embodiment)、具現化するのがデザイナーの仕事ではないだろうかということを、最近よく考えています。
佐藤:
深澤さんのそのお考えと、一生さんが声高な主張をせずに、服づくりを通して我々に伝えようとしている意志には、共通点を感じます。
編集:カワイイファクトリー
写真:吉村昌也
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