In Depth(徹底調査)
今号のカバーストーリーはニューヨーク市をあげての盛大なイベント『NYCxDESIGN』についてである。展示紹介されるプロジェクトやプロダクトのみならず、このイベントの立役者やキーパーソンらにも焦点を当てる。しかしその前に、デザイナー・三宅一生の長年にわたるイノベーションの数々を考察する特集からスタート。さらに、建築家Andrea Lenardin Maddenの手掛けた、ハリウッドヒルズの伝統家屋の考え抜かれた増築の仕事をレポート。
A to Z of Issey Miyake(三宅一生のすべて:三宅一生A to Z)
3月16日、デザイナー・三宅一生の46年に及ぶデザイン活動に捧げられた展覧会『MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事』が、6月13日までの会期で東京の国立新美術館において開幕した。そしてこの展覧会に合わせ、タッシェンから三宅一生についてのものすごいボリュームの研究書——タイトルはシンプルに『ISSEY MIYAKE』——が刊行されたが、この本は間違いなく三宅一生研究の決定版となるものである。これだけでも凄いことなのに、三宅の仕事はさらに今月、メトロポリタン美術館の展覧会『Manus x Machina: Fashion in an Age of Technology(手仕事×機械:テクノロジー時代のファッション)』でも取り上げられることになっており、彼の伝統技法と先端技術を融合させた服づくりが展示紹介される予定だ。今こそ明らかに、この広島生まれの、世界で最も洞察力に優れたクリエイターのひとりであり続けている “独創的なものづくりの第一人者”三宅一生の仕事を考察するに相応しい時機である。
1970年に自身の事務所を設立して以来、三宅はテキスタイル開発から服、小物、インテリアの創造に至るまで、革新技術と伝統的な手技を融合させた美しい仕事を成し遂げてきた。彼は熱を用いた革新的なプリーツ技術の開発や、一枚の布による服づくりを通して、布の可能性の、ひいては布と身体の関係の、新境地を切り開いてきた。モードが皮相的な様式化の傾向を強めても、三宅はそうした風潮とは一線を画し、『PLEATS PLEASE』や『A-POC』に代表される仕事を通して、体型を問わず着る人誰もが似合う服を創り続けた。「私がつくっているのは、着る人の一部となる、つまり着る人の身体の一部となるような服です」と三宅はかつて述べている。「私の服はいわば道具(ツール)です。まさに道具(ツール)を使いこなすように、着る人それぞれが思い思いに着こなしてくだされば良いのです」。
齢78の三宅は今日、これまで以上にますますその存在感を増しており、プロエンザ・スクーザー、ジョナサン・アンダーソン、滝沢直己ら新世代のデザイナーらに影響を与えている。『MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事』のオープニング・レセプションの際、三宅はフランス政府より最高勲章レジオンドヌール・コマンドゥールを授与されたが、まさにこれは世界をより美しく持続可能な場所にすべく挑戦を続ける革命的デザイナー・三宅に相応しい顕彰だ。さて本誌もここに、本誌独自のオマージュを三宅に捧げることにしよう。かくして我々が作りあげたのは、デザイナー・三宅の画期的な仕事、革新的な思想、そしてコラボレーターたちについてなど三宅のすべてを知ることができる手引書『三宅一生キーワード辞典』。これを読んで彼の創造の喜びに触れ、未来の大きな可能性を感じてください。
文:Paul MakovskyとAvinash Rajagopal
ポートレイトおよび展覧会写真:Tony Taniuchi