MIYAKE ISSEY展 三宅一生の仕事

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La RepubblicaMay 7 2016

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三宅一生
アルゴリズムを駆使した服づくり

文:Laura Laurenzi

長年にわたる仕事の代表作を一堂に紹介する大展覧会、そして透明性と本質性と五感の喜びへの讃歌である新香水の発表。最も尊敬を集める最も慎み深い日本人デザイナー、三宅一生は今、賞賛に彩られた季節を迎えている。東京の国立新美術館において6月13日までの会期で開催中の「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」は、斬新さと革新性が際立つ45年余に及ぶ彼のデザイン活動を概観するものであるが、彼の創造への情熱がひしひしと伝わって来る、かつてない規模の感動的で大迫力の見応えある展覧会である。すでにパリコレクションからは身を引いているとはいえ、現在78歳の三宅は今なお研究開発に明け暮れる毎日を送っている。ライン、フォルム、素材、幾何学、ボリュームについての尽きることを知らない探究を続けながら、服飾技術と科学技術、伝統と未来、美と用、そして洞察力に富んだ創造性とビジネスを融和させている。
「服は身体と精神を自由にするための手段でなければならない」というのが、巨匠・三宅の理論である。本展で展示紹介されている100点以上もの作品は、数万点にも及ぶ三宅の膨大なアーカイブの中から厳選されたものである。彼が研究開発チームとともに実験に次ぐ実験を重ねた結果、ペットボトルなどのリサイクルからシルクと見紛うような光沢のあるテキスタイルを実現。すなわち、エネルギー消費を削減することのできる美しい再生ファイバーの開発に成功したのである。また彼はこのようなテキスタイル開発と並行して、デザイナーとして本格的に活動を開始した1970年から今日まで一貫してアルゴリズムによる「数学的な」服づくりを進化させてきたと言える。本展で展示紹介されている作品の中から代表的なものを以下に列挙しよう。ジミ・ヘンドリクスとジャニス・ジョプリンのポートレイトがタトゥ・プリントで背にあしらわれた、第二の皮膚とも言うべきボディ・スーツ「タトゥ」。三枚の正方形のポリエステルの布から構成され、その縮小サイズが胸元を飾る「ハンカチーフ・ドレス」。ヌバ族のコスチュームからインスパイアされた「ヌバ」。一枚の布から一切の裁断無しに成形され実現された「コクーン・コート」。
 また、実際の女性のトルソ(胴)から合成樹脂で型どりして実現された、生体工学による女性性の塑型とも言うべき大胆なボディや、ラタンとバンブーによるボディ、ワイヤーケーブルによるボディ、さらにはジャージーに溶解シリコンを浸みこませることによって滝水の流れと迸(ほとばし)りを表現した「ウォーターフォール」から構成される「ボディ」シリーズ。馬尾毛で密に織られたタバコ色の厳格な衣服「バス」。『オズの魔法使い』を彷彿とさせるラフィアのボディ・スーツ。日本の純白の和紙による、中世の告解者の装いを連想させるフード付きコート「紙衣」。韓国原産のリネンによる、先史時代の固そうなギザギザの突起がほどこされた壮観な服「ダイナソー」。手品のようなクリエーション。折りたたまれると完璧に二次元平面になる折り目が施された服。三宅の名を世界に轟かせることとなった、誰もが着られるパーマネントプリーツ「PLEATS PLEASE」の服。ルソーの夜景画にインスピレーションを得たフォービズムのようなスーツ/セットアップ。毛がふさふさのボディ・スーツ「モンキー」。中央アジアの遊牧民のテントのようなコート「パオ」。キャラメルの包み紙のような服。ストーブの管を想起させる、ワードローブが内蔵されたチューブ状のファブリック「Just Before」。小さな空飛ぶ円盤が幾重にも重ねられたような蛇腹式構造の「フライング・ソーサー」。段の付いた螺旋(らせん)階段のようなチュニック。折りたたみ開閉構造のスカート「ペンタゴン」。ヒートカットによる、針も糸も使わない白いドレス「コロンブ」。
 ところで、本展と時期を一にして発表された三宅の最新香水「ロードゥ イッセイ ピュア」は、今や香水界の定番のひとつに数え上げられる「ロードゥ イッセイ」の世界観をさらに追求したものである。「女性の皮膚の上で香り立つ水」というコンセプトのもと、湧き立つ澄みきった滝水、すなわちピュアな自然を表現したこの新香水の香りの主成分は、ダマスクローズ、フリージア、ペオニー、ホワイトリリーで、ほっそりとした円錐形のボトルの底には水の滴(しずく)がデザインされている。これらはみな、本質性とシンプルさの極致と言える。